Left After the Credit: 思惟のフィルムノート

アート系・インディペンデント系の海外映画を中心に、新旧問わず感想や考察を綴っています。

憐れみの三章 / ビーキーパー / アシスタント / ボーンズ アンド オールなどの感想書き散らし

2025/5/5~2025/5/11

憐れみの三章


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ヨルゴス・ランティモスは好きな監督の一人。去年観た『哀れなるものたち』があまりにも好きすぎて、なぜかこの新作は観られずにいた。(謎のロジック)(ちなみに「籠の中の乙女」はオールタイムベスト)ようやく鑑賞したところ、ギリシャ悲劇やギリシャ演劇をモチーフにした短編3本が連なる構成で、実にランティモスらしい仕上がりだった。ただ、ちょっと長い……。30分×3本くらいの構成で100分程度なら、もっと見やすかったかもしれない。

 

ビーキーパー


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結局「ビーキーパーって何の組織?」という疑問は最後まで解消されなかったけれど、隠居していたおじさんが実は殺人マシンだった!というジャンル映画としてはなかなか楽しめた。ただ、この作品を観たことで『ジョン・ウィック』や『イコライザー』の完成度の高さを再確認することにもなった。

それにしても、ハチを殺されたことには怒らないのはどうしてだ、ステイサム。ジョン・ウィックにとっての犬じゃないのか、君のハチは。国家権力にいきなり立ち向かうってどういうことなんだ、ステイサム。隣のおばあさんを慕っていたことは本人がそう言うので仕方なく伝わってくるが、それにしてもメンタルがあまりに人間離れしていて、もはやサイコパスなのではと疑ってしまった。ただ、話がどんどん大きくなっていく過程では、「自分は今映画を観ている!!」という快感があって、それは良かった。

 

アシスタント


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映画プロデューサーを目指して映画会社に入社した主人公が、会長のアシスタントとして働くなかで会社内のパワハラやセクハラに直面する1日を描いた作品。男性から女性、上司から部下へのパワハラだけでなく、女性から女性、同じ部署内でのパワハラも描かれており、観ていて本当に苦しくなる。

これは映画業界や秘書職に限った話ではなく、すべての雇われ労働者が抱える不満や疑問、そして「会社の何かを変えようとすればするほど、無力感に直面する」という普遍的な問題が描かれていると感じた。私自身、主人公と似た職種ということもあり非常に胸に刺さった。まあ出てくる人間全員終わってるんですけど、特にHRの男性社員の対応には怒りを覚えた。最初は「あなたの味方だよ」と優しい口調でカウンセリングを始めながら、最後には「それで、辞めたいの?」と冷たく突き放し、しかも相談者の秘密を厳守しない。主人公は明日、どうするのだろうか。会長の自分への評価を糧に生きていくのだろうか。あんなのグルーミングやDVのハネムーン期みたいなものなのに。

ドキュメンタリー出身の監督らしく、細やかな描写の積み重ねがとても丁寧。現実を的確に突き刺してくる、非常に鋭い作品だった。おすすめ。

 

ボーンズ アンド オール


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『クィア』を観る前に、見逃していた本作をチェックした。結果、ルカ・グァダニーノ作品の中で一番好きになった。10代の頃に観ていたら、きっともっとハマっていたと思う。偏愛映画。人食い族のティーンたちによるアメリカ逃避行――とはいえ、ここでの「人食い」はマイノリティのメタファーとして描かれている。そんな彼らがお互いに歩み寄りながら「普通の人間」として生きようとするも、同じ人食い族のストーカー・サリーの登場によって物語は悲しい結末へと進んでいく。だが、最後に2人が外で抱き合っているラストカットによって、「孤独な者同士の痛々しい愛」が完成されたことが静かに、しかし強く表現されていた。しかも主演のシャラメは製作にも関わっている。どう考えてもメンヘラじゃん、やっぱり嫌いになれない…。

 

ノースマン 導かれし復讐者


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ロバート・エガース監督『ノスフェラトゥ』の予習として鑑賞。北欧を舞台にした歴史アクションという珍しい設定で、ヴァイキングたちの荒々しくも壮絶なアクションが見応えたっぷり。復讐劇としても美しく、ラストはしっかりと締まっていた。そして何より、ニコール・キッドマンの演技はやはり圧巻。個人的には、この規模の映画にしては日本語Wikipediaがやたら充実していたことが妙に印象に残った。きっと熱心なマニアがいるんだろうな……。

 

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