Left After the Credit: 思惟のフィルムノート

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【ネタバレあり】UMA・ビッグフットが教えてくれる“生きること”—映画『サスカッチ・サンセット』感想

画像引用元:映画.com『サスカッチ・サンセット』フォトギャラリー(画像12)より引用(著作権は Cos Mor IV, LLC に帰属します)

(原題:Sasquatch Sunset / 2024年製作 / 2025年日本公開 / 88分 / デヴィッド・ゼルナー監督、ネイサン・ゼルナー監督 / アメリカ)

※本記事は映画『サスカッチ・サンセット』のネタバレを含みます。また、記載されている考察・解釈は筆者個人の見解です。


一般向け試写会+トークショーに参加し、劇場公開前に鑑賞。本作は、UMAのサスカッチ(=ビッグフット)が生きる1年を、まるでネイチャードキュメンタリーのように描いたというなんとも珍しい映画だ。ただ奇をてらったおふざけ映画ではなく、そこにあったのは、サスカッチを通して「生きること」の本質を見つめ直させてくれる唯一無二の映像体験だった。

 

あらすじ:サスカッチの四季

 

春:始まって早々、メス・サスカッチ(ライリー・キーオ)とアルファオス・サスカッチ(ネイサン・ゼルナー)が交尾中。葉っぱをむしゃむしゃ食べたり、亀にちょっかいを出して痛い目にあったり、大木を棒でリズムよく叩いたりと、自由気ままな日々が続く。

しかし、ある日、アルファオス・サスカッチが毒キノコを食べて体調を崩し、錯乱状態で無謀にも虎に飛びかかってしまう。そのまま命を落としてしまった。アルファオス・サスカッチが虎に内臓をむさぼられる彼の亡骸を目にした仲間たちは彼の遺体を虎から守り、丁寧にお墓を作って弔うのだった。

 

夏:川遊びにサケ漁、そして妊娠の知らせ。森がもっとも命に満ちる季節がやってきた。だが森の中で“赤いバツ印”を見つけたサスカッチたちは、まだ見ぬ生命体(人間)の痕跡に戸惑いを見せる。やがて突如現れる舗装された道路にショックを受け、興奮してその場に排泄する姿は、自分たちの領域だと主張するためのマーキングのようにも見える。

ふたたび川で遊んでいたときのこと。オス・サスカッチ(ジェシー・アイゼンバーグ)が、伐採され川に倒れていた丸太の上で足を滑らせ、足が挟まって身動きが取れなくなってしまう。仲間の懸命な救出劇もむなしく、彼はそのまま溺死してしまう。しばらくしてその亡骸は流され、やがてカラスについばまれていた。残された2匹はまた墓を作り、静かに仲間の死を悼むのだった。

 

秋:2匹になったサスカッチたちは、突如人間のキャンプ跡地を発見。チートスなどのお菓子を食べ喜んでいたのもつかの間、手にしたラジカセから流れる音楽に涙し、怒り、破壊し、混乱する。すると、雌サスカッチは破水する。無事ベイビー・サスカッチを出産したものの、血の匂いを嗅ぎつけ虎が彼らを狙う。冷静な判断で胎盤を餌として投げ、子を守り抜くメス・サスカッチだった。

 

冬:雪の中、ケージに入れられた鶏や罠、山火事などの人間の気配に脅かされながら、2匹は静かに暮らしていく。しかしある夜、ベイビー・サスカッチが息をしていないことに気づいたメス・サスカッチ。慌てて声をかけたり叩いたり揺さぶったりして、何とか命を取り戻す。よかった。
そして山火事が起きていた方向へ向かう彼らが最後に辿り着いたのは…なんと「ビッグフット・ミュージアム」。そのミュージアム前に佇むサスカッチたちのラストカットは、衝撃と共に、妙な余韻を残す。

 

タイトル『サスカッチ・サンセット』の意味


“サンライズ”ではなく“サンセット”。それはサスカッチたちの終焉、もしくは絶滅を示唆しているのだろう。彼らはたびたび大木を叩いて仲間の存在を探るが、一行に返事はない。この1年のあいだに、人間による森への介入が急速に進んでいる様子が明らかになる。仲間の1匹は森林伐採が原因で命を落としてしまうほどだ。もしかすると、作中に登場するサスカッチたちが「最後のサスカッチ」だったのかもしれない。

 

言葉を超えて伝わる感情


この映画には字幕がなく(ラジカセから流れる曲とエンディング曲の歌詞のみ字幕有)、サスカッチたちは人間の言葉を話さず吠えたり唸ったりするだけ。それでも、彼らの感情が不思議なほどダイレクトに伝わってくる。サスカッチたちは笑い、怒り、涙し、時に気まずくなりながら、仲間の死を悼み、新たな生命を慈しむ。その感情表現の一つ一つがどこか滑稽であると同時にとても愛しく、セリフがなくても観る者を引き込んで離さない。役者たちの身体表現と監督の演出力の賜物だろう。

 

木を叩く音は、今日もどこかで響いている


厳しくて、美しくて、滑稽で、残酷な自然。その中で確かに生きているサスカッチたちを通して、今ここに生きている自分を見つめ直したくなった。

言葉も、文明も持たない彼らが生きている森の中で、サスカッチたちは驚くほど人間くさくて、愛おしい。命の誕生と死、仲間への敬意、自然の厳しさ。そこには"人間が忘れかけている何か"があるのではないだろうか?

彼らがずっと続けていた、木を叩く音。それは仲間を探すシグナルだった。けれどその声は最後まで誰にも届くことはなかった。

私たちもきっと、日々の暮らしの中で、誰かに気づいてほしくて、同じように何かを鳴らしているのかもしれない。

都会で暮らしていると、自然や他者の存在がどんどん遠ざかっていく。でもこの映画を観た夜、私は少しだけ、耳を澄ませてみようと思った。

——遠くから、かすかに、木を叩く音が聞こえてくる。そんな気がした。

 

監督のゼルナー兄弟について


本作を手がけたのは、アメリカの兄弟監督デヴィッド&ネイサン・ゼルナー。
代表作には映画『ファーゴ』の中に登場する“埋められたお金”を本物と信じて、単身アメリカに渡る日本人女性を描いた『トレジャーハンター・クミコ』(2014)など『サスカッチ・サンセット』同様、一筋縄ではいかない作品ばかりだ。
奇抜だけどどこか人間臭く、笑えるのに胸が締めつけられるような作家性と言えるだろう。

そしてなんと次回作には、ケイト・ブランシェット主演のSFコメディ『Alpha Gang(原題)』が控えているらしい。チャニング・テイタム、スティーブン・ユァン、レア・セドゥらが脇を固める、まさにオールスターキャストの一作だ。
地球侵略を企ててやってきた宇宙人たちの物語…というこれまた風変わりな設定。

奇作ばかり撮ってきた彼らが、どんな風にスケールアップしていくのか。今後も要注目の監督たちだ。

 

トークショーより:中沢健さんのサスカッチ解説が最高!


試写会後のトークショーでは、UMA研究家の中沢健さんが登壇され、これが本当に面白くて、映画への解像度が一気に上がった!いくつかメモを残しておきたい。

  • ビッグフットはアメリカで根強い人気を誇るUMAで、ファンは“ビッグフッター”と呼ばれる
  • ただしビッグフット映画は大体が駄作(安い着ぐるみだけで低予算で撮れてしまうから)
  • その中でも本作は映画史上に残る傑作
  • 本作は“ビッグフット動物説”を採用しており、宇宙人説、スピリチュアル説などの派閥によって評価が割れるらしい
  • 木を叩いて仲間を探すという行動は実際のビッグフット研究でも有名な話
  • ビッグフットが初めて映像に抑えられたパターソン・ギムリン・フィルムは今もなお真偽が確定していないため、UMAとして夢がある存在
  • 映画に登場する「ビッグフット・ミュージアム」は実在する!

thebigfootmuseum.com

 

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