画像引用元:映画『テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ』公式サイトより引用(著作権は UNIVERSAL STUDIOS に帰属します)
(原題:Thelma / 2024年製作 / 2025年日本公開 / 99分 / ジョシュ・マーゴリン監督 / アメリカ・スイス合作)
※本記事映画には映画『テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ』のネタバレはありません。また、記載されている考察・解釈は筆者個人の見解です。
Fan's Voiceさんの独占試写会に当選し鑑賞。公開は6/6(金)です。 作中の設定と同じく撮影当時93歳の女優、ジューン・スキップが初主演を飾っています。(しかも彼女はスカーレット・ヨハンソンの初監督作で主演した新作が今年のカンヌで上映されています…!)
物語は、93歳のテルマが孫のふりをしたオレオレ詐欺に遭い、そのお金を取り返すべく、老人ホームで暮らす友人のベン(リチャード・ラウンドトゥリー、本作の封切り前に亡くなったそうです。R.I.P)のスクーターを借りて詐欺師のもとへリベンジに向かう!というコメディ。お年寄りジョークが満載でとても面白く、試写会の会場は何度も大きな笑いに包まれていました!楽しかった。
予告編のイメージ通り、ずっと面白くて楽しい、万人におすすめできるコメディなのですが、「高齢者の家族に対して本当に思いやるってどういうことだろう?」と考えさせられる場面もあって、最後には少し涙してしまいました。
お年寄りあるあるのジョークと切なさ
本作は、監督のジョシュ・マーゴリンが、実のおばあさま(103歳のテルマ・ポストさん!)がオレオレ詐欺に遭いそうになった実話をもとに制作されています。(まさかの『ビーキーパー』と似たような経緯)きっと彼女に聞いたり、監督が見かけたであろう“お年寄りあるある”のユーモアがたくさん。Instagramに間違えてブレた床の写真をアップしてしまったり、連絡した友達が次々亡くなっていたり(文章にすると不謹慎に見えるかもしれませんが、映画ではとてもユーモラスに描かれています)、町で会った同年代の初対面の人を昔の友人と勘違いして話しかけたり…
でも、時にとても切ない描写もあるんです。家族が別室で「テルマが詐欺に遭ったのはボケたからでは」「もう一人暮らしは無理だから老人ホームに…」と話しているのを聞いてしまい、テルマがそっと補聴器を外してしまったり。ほかにも、詐欺師のもとへ向かう前に一人暮らしの友人・モナの家を訪ね、モナの目を盗んで銃を盗もうとするのですが、モナは耳が悪いのか、テルマが銃を暴発したことに気づかなかったり。モナとのやり取りは観ていると思わず笑ってしまう場面なのですが、その後テルマが「モナは普段どうやって暮らしているんだろう」と気にかけるシーンがあり、笑いの裏に老いの現実がにじみ出ます。
孫のダニーとテルマの関係
テルマの孫・ダニー(フレッド・ヘッキンジャー)は、無職で彼女とも上手くいかず、財布を落として免許の再交付のやり方がわからず無免許運転……と、一見ダメな奴。でも、テルマのことを心から大切に思っていて、とても優しいんです。テルマにパソコンの使い方を楽しそうに教えたり、彼女が手渡したビー玉を嬉しそうに受け取ったり、出かける時には車を出してあげたり、Apple Watchのようなデバイスを付けてあげたり。
私は祖母が2人とも健在ですが、遠くに住んでおり疎遠になってしまっていて、たまに会っても冷たく接してしまうので、彼の姿を見ているだけで胸が痛くなりました。もちろん、愛されるテルマの人柄もあると思うのですが、それでも、あんな風におばあちゃんを大事にできるダニーは唯一無二で素敵な存在だなと…。私が百万回でも言ってあげたい。
フレッド・ヘッキンジャーの演技も本当に素晴らしくて、犬系で憎めない、とっても優しい目でテルマを見つめるんです……ああ、それを思い出しただけでもまた涙が……。
高齢者へのアンコンシャスバイアス
ちょっと真面目な話をすると、これはアンコンシャスバイアス(無意識の偏見、年齢・性別・人種などで相手の能力や状態を決めつけること)についての物語でもあると思いました。
テルマは93歳でもハキハキしていて、しっかり歩けていて、ハイテクな補聴器も使いこなしていて、傍から見ると一人暮らしも問題なさそうに見えます。でも家族は心配から、詐欺に遭ったあとは「もう郵便局へも一人で行ってはダメ」と、行動を制限しようとするんです。心配するのは分かりますが、「一人で郵便局に行っちゃダメ」というのは、彼女の普段の様子を見ていないから故の過剰な制限に感じます。
93歳だからって、アレもコレもできないって決めつけちゃダメ!そのことをテルマを演じたジューン・スキップ自身が体現してくれているので、本当に勇気づけられる。93歳でも長編映画の主役(しかもアクション有)ができるんだ!
さらに「老人ホームに入ってもらったほうがいいんじゃないか」というに家族の意見について。テルマにとって今は、23歳で結婚して91歳まで家族と暮らしてきた中で、ようやく手にした「一人の時間」。彼女はそれをとても大切にしていて、誇りにも思っているんです。
家族や本人にとって安心・安全かどうか、ではなくて、本人にとって本当に幸せなことを優先するのが大事なのだと考えさせられました。
とはいえ、テルマ自身も老人ホームに対してバイアスを持っていて、ベンにちょっと心無いことを言ってしまう場面もあります。でも、ベンは老人ホームの暮らしをとても楽しんでいて、満足している。当たり前ですが、お年寄りも色々なんです。
性別や人種、若年層に対してのアンコンシャスバイアスは自分なりに意識しているつもりでしたが、高齢者に対しては、まだまだ想像が足りなかったことに気づかされて、胸がぎゅっとしました。
個人的な話ですが、私の母方の祖母は、80歳近くなった今でも、フルタイムでは無いものの、出張のある仕事を続けています。ここ数年、私は帰省のたびに「もう辞めた方がいいんじゃない?」と口にしていました。きっとそれって、テルマに「一人で郵便局に行かないで」と言うのと同じことですよね。
でもテルマも気持ちは元気でも、体は確実に衰えていて、病気があったり、階段を上るのが大変だったり、転ぶと一人で起き上がれなかったりもする。だからこそ、私たち家族に必要なのは、ベンが作中で言うように「思いやり」なのだと思います。
本人ができると言っているのなら、意思を尊重する。そして困ったときにはすぐにサポートを求めてもらえるような関係を普段から築いておく。助けを求めることも、また強さなのだ。それが理想なのかもしれません。
おわりに:テルマ最高~!
ちょっとしんみりさせてしまいましたが、(長生きしたら)いつかはお年寄りになるすべての人、そしてもちろん現お年寄りの方にもおすすめの超楽しい映画です!テルマは間違いなく今年のベストヒロイン!シリーズ化してほしいくらい。そして、図らずもトム・クルーズの心の広さを知って、ほっこりできたりもします。
テルマ最高~!
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