画像引用元: 映画.com『28年後…』フォトギャラリー(画像13) より引用(著作権は ソニー・ピクチャーズエンタテインメント に帰属します)
(原題:28 Years Later / 2025年製作 / 2025年日本公開 / 115分 / ダニー・ボイル監督 / イギリス・アメリカ合作)
※本記事は映画『28年後…』のネタバレを含みます。また、記載されている考察・解釈は筆者個人の見解です。あまり褒めておりませんので、否定的なレビューが苦手な方はご留意くださいませ。
一度シリーズの監督・脚本から離れたダニー・ボイルとアレックス・ガーランドが再びタッグを組んだこと、そしてこの20年でそれぞれのキャリアを積んできた二人が、今どんな感染パニックホラーを作るのか気になって観に行ったのだが……正直、気になる点も多い作品だった。
今回鑑賞前に過去作も見返しました。レビューはFilmarksに。
ダニー・ボイルについて
まず、ダニー・ボイルのガチャガチャごちゃごちゃした画面を久々にスクリーンで見て、面食らった。こんな勢い任せな感じでも良いんだ……と毎度ある意味勇気づけられる。ジャンプカット、手持ち風のクローズアップ、ピントが甘い広角ショット、カットごとに異なる画質*1と質感、そして編集はやはり純粋に好みではない。
劇伴もバラバラで、ボイル十八番のUKロック(ブリットポップ的なものも含む)に、ガーランドの『シビル・ウォー』を思わせる重低音の電子的なサイレンっぽい音、そしてラストには唐突なデスメタル…全体として統一感がない。この混沌を作品として成立させてしまうのは、やはりダニー・ボイルの一種の才能なのだと思う。
感染者を弓で倒す描写も独特で、序盤に何度か矢が命中した瞬間に画面が一時停止し、角度を変えて貫通するという演出が入る。ゲーム的で斬新ではあったが、意図が読み取れずノイズに感じた。あと、弓で頭蓋骨は貫通できないと思うけど……。
アレックス・ガーランドについて
日本版の「これは絵空事ではない」「本作は、世界的パンデミックを経験したわれわれ人類に向けられた"黙示録"なのか?」というキャッチコピーや、プロモーションの雰囲気から、てっきりコロナを経た私たちが経験した、非常時の倫理や分断を描いた作品かと思っていた。が、蓋を開けてみれば本筋はシンプルなジュブナイルもので、拍子抜けしてしまった。
ただこれは、そもそもガーランド自身が「COVIDは特に意識していなかった」と語っていた*2ようなので、私の期待が見当違いだったということだろう。(とはいえ、じゃあなぜこのタイミングでこのシリーズを復活させたのかはやはり疑問が残るが……)
そしてまだ三部作の一作目ということで今後説明があるのかもしれないが、設定やキャラクターの行動動機に疑問点が多く、どうしても物語に乗り切れなかった。
特に気になった点
・なぜスパイク(アルフィー・ウィリアムズ)と父・ジェイミー(アーロン・テイラー=ジョンソン)はわざわざ本土に渡って感染者を狩るのか?最初は物資調達のためかと思ったが、イニシエーション的に感染者を“殺して帰るだけ”の儀式のように見えた。純粋に説明不足な上、物資調達のためなら、どこかへ何かを取りに行こうとする仕草を入れるべきだろう。
・スパイクが、父の浮気現場を目撃して傷ついたのだとしても、つい先日、父と一緒に命の危険を感じるような目に遭った本土へ、体調が悪いと言っている母・アイラ(ジョディ・カマー)と二人だけで行こうとするのは、いくら彼女を医者に見せるためとはいえ、リスクが高すぎて納得しづらい。スパイクはそこまで向こう見ずな性格には見えなかった。
・母をあの時点で安楽死させる必要があったのかも、疑問が残った。こういった形で、主人公の成長を描くために登場人物を殺す展開は個人的にあまり好まない。身近な人の死を経験しなくとも人は成長し大人になれるし、彼は感染者との戦闘をもって、十分に「メメント・モリ」を実感できたはずだ。
・『28日後…』には、自然に芯の強い女性キャラクターが登場し、キャスティングにも一定の多様性が見られた。ジャンルものとして、あの時点である一定の意識があったのは評価できるポイントだったと思う。それに比べて本作は、物語の中心が白人男性に集約されており、唯一の女性である母親は病に倒れ、死を強いられる。しかも彼女の死は息子の成長のための「犠牲」として消費されるような筋書きで、何かが後退してませんか……?
良かった点
テンションが上がったのは、レイフ・ファインズ演じる、全身にヨウ素を塗った真っ赤な医者・ケルソンの登場。圧倒的な存在感で、キャラクターとしては最高だった。
あと、アルファと呼ばれる走る感染者たちには「お!お家芸だ!」という興奮を覚えた。
今後への疑念
今回観て思ったのは、ダニー・ボイルのパンクでガチャガチャした演出と、アレックス・ガーランドの近年のストイックで抽象的な語り口は、あまり相性が良くないのでは?ということ。今後、キリスト教やカルト宗教的なモチーフを扱うのであれば、そのギャップがさらに歪な形で浮き彫りになりそうで、心配している。仲が良いのなら良いのですが……。
色々否定的なことも書いてしまったが、やはりホラー好きとして見逃せないシリーズだと思っているし、まだ本作は映画で言うなら一幕目。ここからガーランドのシナリオが覚醒する可能性もあると思うので、次作も楽しみにしている。
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*1:今回iPhoneでも撮影したらしいが具体的にどこなのかとその効果はわからなかった
*2:28 Years Later interview | Screenwriter Alex Garland on its inspiration and themes | Film Stories